東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)72号 判決
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〔編注〕一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三十二年八月二十二日、「水口青立防止栽培法」につき特許出願をし、昭和三十三年十一月二十五日出願公告があつたところ、本件被告補助参加人より特許異議の申立があつた結果、昭和三十六年五月三十日、拒絶査定を受けたので、同年七月十七日、これに対する抗告審判を請求し、同年抗告審判第二、〇八五号事件として審理されたが、昭和四十一年三月三十日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年四月十三日原告に送達された。
二 本願発明の要旨
柔軟でなるべくは薄い合成樹脂管を水の取入口から適度に長く走行せしめたのち回曲し、その放水方向をなるべく取入口方向にあらしめ、導水をあたためたのち、これが水の取入口の方向に流れるようにした水口青立防止栽培法。
三 本件審決理由の要点
本願発明の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、本願出願前周知と認められる「北日本新聞」(昭和三十二年五月二十六日号)(以下「第一引用例」という。)には、富山県上新川郡大山町において、同県農業普及事務所の前田技師が水田水口の冷害防止のために、薄くて透明なビニールホースを用いて、これに灌漑用水を回状に導き、水田に灌漑させて、水温を上昇せしめ、水口部の水稲の刈取りを他の田面と同時にできるようにし、その収量も増加したことが記載されており、証人河原一雄の供述によれば、「同人が昭和三十一年六月から同年十一月まで自己の田圃で、薄いポリエチレンチューブを使用し、これに水口から水田中に長く導水せしめ、その先方は適宜に回曲して一週間ごとにその放水端を変更した」ことを公然実施した事実(以下、この供述内容を「第二引用例」という。)、が認められ、上記周知事実と本願発明とを対比するに、第一引用例には、本願発明の実施例として図面に記載してあるように、その導水ホースが水田面に置かれているものか、又は水田面上から離れて〔ホース支承物によつて支承され〕置かれているものかの点及び本願発明の一実施形態である「放水方向をなるべく取入口方向にあらしめ」という二点を除けば、灌漑用水を薄い合成樹脂製の管に導水し、これを回曲して水田中に放水し、水温を上昇せしめて水口の青立を防止するという点で本願発明と同一であり、しかも上記放水方向を取入口方向にあらしめる点は、本願発明の必須の構成要件とは認め難いばかりでなく、第二引用例によれば、本願発明と同一の方法を公然実施した事実が認められる。したがつて、本願の発明は、第一引用例及び第二引用例によつて、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第四条第一号に該当するものと認めないわけにはゆかず、同法第一条の発明と認められない。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告が本件審決を取り消すべき事由として主張するところは、以下に説示するとおり、理由がないものというほかない。すなわち、本願発明の要旨が前項記載のとおりであることは、原告の認めて争わないところであるところ、原告は、本願発明は、合成樹脂管を水田中を導き、その放水口を水の取入口付近に在らしめることを要件とするものである旨主張する。しかし、本願発明の明細書の「特許請求の範囲」の項にはこの点を限定する格別の記載はなく、これに明細書に記載された水口の冷水の影響を除去するという本願発明の目的及び吸温率の高い合成樹脂管を水の取入口より一定距離走行させ、その間に管中の導水の温度を高めるという右目的を達するための技術思想を合わせ考えると、本願発明において合成樹脂管は水田中のみを通る場合に限られるものではないと認めるべきである。もつとも、本願発明の明細書の「発明の詳細なる説明」の項記載の実施例の説明及び図面では、合成管が水田中に配設されているけれども、右は一実施例にすぎず、合成樹脂管を「太陽熱の直射と地温、水温」により急速に暖める趣旨の記載も、実施例についての説明であり、この記載が太陽直射熱のみ又は太陽直射熱と地温により管中の導水を暖める場合を除外するものとは、前示本願発明の特許請求の範囲の記載及び技術思想に徴し、とうてい認め難いものといわざるをえない。また、管の放水口を水取入口付近に在らしめるという点も、特許請求の範囲中「その放水方向をなるべく取入れ口方向にあらしめ」の記載は、その「なるべく」との文言自体並びに上記文に続く、「導水をあたためてのちこれが水の取入口の方向に流れるようにした」との文言及び前記本願発明の目的に徴すると、管の放水方向を取入口方向にあらしめることは、本願発明の目的を達するに望ましいものであるとしても、それは本願発明の必須の要件ではなく、管中の導水が水の取入口方向に流れるように管を配設すれば足ることをもつて必須要件とするものとみるを相当とし、明細書中の他の記載にも叙上認定を妨げるに足りるものはない。したがつて、原告の上記主張は採用するに由ない。
他方、特許異議手続における証人Kの尋問調書によれば、Kは、水口より生ずる稲作の冷水害を防止するため、「薄いポリエチレンチューブで水を取入口から導き、これを長く水田中を通らせ、その先端を適宜に回曲し、一週間ごとにその放水端の位置を変更する」という方法(第二引用例)を本願出願前公然実施した事実を認定しうべく、……他にこれを左右するに足る何らの証拠資料もない。しかして、第二引用例において、ポリエチレンチューブの端部の位置を変更したということは、取りも直さず、それを水の取入口付近に在らしめ、又はチューブによる導水を水の取入口方向に流れるようチューブを配設する場合を含むものであることは、その目的に徴し、いうをまたないところであるから、青立防止栽培法という技術思想としてみるとき、本願発明は、第二引用例に示された技術に包含されるものといわざるをえない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)